喜び
ぐいっ、と世之介は茜を見詰めた。世之介の表情を見て、茜は身を強張らせた。
──戦闘能力平均以下、脅威ではない。
世之介は一目ちらっと見ただけで、茜の敵としての評価を下していた。世之介にとって、全てが自分に対しての脅威か、そうでないかという価値基準だけであった。今の世之介は、戦士の判断だけで全てを理解していた。
世之介は自分と、閉じ込めている鉄の扉に目をやった。
出し抜けに世之介の胸に、激しい怒りが湧き上がってくる。
──自分は、自由である!
閉じ込められるのは我慢できない!
世之介の足が上がり、全身の力を込めて、扉に向けて蹴りを入れる。
ぐわんっ!
怖ろしい音を立て、鉄の扉の蝶番が吹き飛んだ。ばあん、と激しい音とともに、鉄の扉は前方に倒れ込む。
「何だ、今の音は?」
叫び声が聞こえる。
あれは助三郎の声だ。
積み上がった商品を掻き分け、助三郎が走り寄った。顔を上げた助三郎は、仰天した表情を浮かべる。
「世之介さん! あんた……」
──戦闘能力、平均以上。賽博格と認められる。戦いには、非常手段が必要。
一瞬にして世之介は助三郎が強敵であると結論付けていた。
世之介はぐっと腰を沈め、戦いに身構えた。助三郎が自分に戦いを挑むかどうかは関係がない。ただ相手が強敵になるかどうかが肝心で、常に備えている。
今の世之介は、戦いを欲していた。それは、ガクランの意思でもあった。
世之介は全身の筋肉を引き絞るよう力を溜めると、一瞬にして放出させた。だっと足の裏が床を踏みしめ、世之介は頭を先に、一本の槍のように助三郎へと向けて飛び掛かる。
助三郎はポカンとした顔のまま、世之介の攻撃を受け止めていた。
どんっ、と世之介の頭突きが、助三郎の胸に炸裂した。
だだだっ! と助三郎の身体が後方に吹っ飛び、積み上げられた商品の山に突っ込んだ。雪崩のように商品が崩れ落ち、助三郎の全身が埋まる。
がらがらと音を立て、助三郎は商品の山の中から這い出す。
驚きに、助三郎は呆然としていた。
「どうしたんだ、世之介さん?」
世之介は応えず、雄叫びを上げていた。
全身の細胞が、戦いの予感に喜悦を上げている。
戦いだ!
喧嘩だ!
これこそ、俺の生き甲斐!
世之介は宙に飛び上がり、更なる攻撃を助三郎に加えていた。