廃嫡・勘当!
ポカンと、世之介は目を丸くして、がっくりと顎を下げ、情けない息を吐き出す。袴の上から自分の尻を押さえる。
自分の尻など、見たことあるものか!
「そ、そ、そ、それが、な、な、何だってんです! 童貞で悪うござんすか!」
父親は眉間に皺を寄せた。
「わたしは、お前が世之介の名前に相応しい男かどうか、学問所に通うお前を密かに調べていたのだ。学問所の師範、級友などに、お前の評判を調べさせた。そうしたところ、皆、異口同音に言うことには、真面目そのもの。女遊びなんか、これっぽっちも考えられないと、口を揃えて答えたそうだ」
世之介は激昂して抗議した。
「真面目でよござんしょう? 家は、代々の商人で御座います。商人が真面目でなくて、どうして務まりましょうか?」
父親は頷いて、言葉を続けた。
「世間では、そうだ。だが、この但馬家では違う。お前は世之介の名前の面汚しだ!」
ぐっと指を突きつける父親に、世之介はゆるゆると首を振った。
どうすればいいのだ!
「初代様、それに、代々のご先祖に、これでは申し訳がたたない。世之介の名前を汚さぬよう、お前、十八になるまで、何が何でも初体験を済ませるんだ。とにかく、お前の尻の青さを消しておしまい! それでなければ、但馬家の長男ではない!」
世之介は驚きに仰け反った。
「そんな、無茶な!」
「無茶でも何でも、童貞を捨てるんだ。そうでなければ、お前は廃嫡、勘当だ!」
「はっ、廃嫡! か、か、か、勘当っ!」
世之介は叫んでいた。
膝をにじらせ、省吾が世之介と父親の中間に位置を変え、口を開いた。
「大旦那様……。世之介坊っちゃんも、初めて聞くお話で、大層な混乱をなさっておいでです。ここは一つ、この木村省吾めにお預けになすっては、如何で御座いましょう」
父親は意外そうに省吾を見た。
「お前が? 何か腹案があるのかえ?」
「はい」と省吾は自信ありげに頷いた。父親は顎を引き、何か考え込む視線で、大番頭を眺めた。
やがて重々しく「よかろう」と頷く。
「お前に任せよう」
省吾は深々と頭を下げ「有難う御座います」と礼を言った。