密室
「イッパチ! 何を考えているんだ? 開けろ! 今すぐ、ここを開けてくれ!」
世之介は鉄の扉を遮二無二ガンガン叩き、隙間に口を押し当てるようにして喚いた。耳をぴったり押し当て、外の気配を探る。
「若旦那……」
扉の向こうからイッパチの声が微かに聞こえてくる。分厚い鉄の板に遮られているため、はっきりとは聞こえない。世之介は唇を噛みしめ、苛立った気持ちを抑えて耳を澄ませる。
「若旦那……。茜さんとそこでナニを……」
聞こえてきたイッパチの言葉に、つくづく世之介は呆れ果てた。
「イッパチ! 何、馬鹿なことを考えているんだ。そんなこと、できる訳ないだろう?」
くくく……、とイッパチの含み笑いが聞こえてくる。
「大丈夫……イッパチ、全て心得てござんすよ……茜さんだって、若旦那にはホの字だってこたあ、承知してまさあ……」
女店員の声が聞こえてきた。相変わらず掠れ、囁くようなので、耳を澄ませないと聞こえない。
「いったい、どうした訳なんです? 二人を閉じ込めたのは、なぜ?」
イッパチが何か答えている気配だが、恐らく耳の近くでコソコソ囁いているらしい。こちらの声は、まるっきり、聞こえない。
「ぷぷぷぷ……!」
女店員の笑い声が聞こえてくる。
「成る程、判りました。お二人のお邪魔は、野暮ですねえ……」
「さようでげす! それじゃ、あっしらは当分――二時間ばかり、ここから離れて……」
「そうですね……。少し、二人きりにさせてあげますわ……」
「うふふふ……」「けけけけ……」と、イッパチと女店員の笑い交わす声が遠ざかる。
「馬鹿野郎!」
ぐわんっ! と世之介は力一杯、扉を拳で叩きつけた。じーん、と手の平が痺れる。
「ね、どうなっちゃったの? イッパチさん、何であたしたちを閉じ込めたの?」
茜の声に、世之介は振り向いた。茜は不安そうではあるが、割合と冷静な態度を保っている。
世之介は大きく息を吐き出す。
どうすべきか?
茜に、全部ぶちまけてしまおうか?
世之介は唇を湿し、茜に向き直った。
「実は、これには訳があるのです」
世之介は、そもそもの始まりから話し始めた。