表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウラバン!~SF好色一代男~  作者: 万卜人
世之介の旅支度
85/236

ガクラン

 扉の内部はごく狭い部屋になっていて、こちらも外と同様、色んな荷物が梱包されたまま積み上がっている。その真ん中に、一組のガクランが衣紋掛けに吊るされていた。


 どきり……と、世之介の鼓動が跳ね上がる。


 思わず世之介は目を見開き、我知らず目の前に吊るされているガクランに近づいた。

 ガクランの裾は長く、膝ほども達している。いわゆる「長ラン」と呼ばれる形式だ。襟は高く、肩はぐっと張り出している。もし身に着ければ、堂々とした姿になるであろうと思われる。


 それより世之介の目を引いたのは、ガクランの布地の色だった。

 真っ赤である。

 すなわち血潮の色。見ているだけで何か、胸の鼓動が高鳴りそうな、燃えるような赤。


 世之介は目を離すことすらできなかった。ただ、魅入られたように、じっと目の前のガクランを見詰めている。


 背後から、女店員が囁いた。

「その者、赤きころもまといて、金色こんじきの野に降り立つべし……!」

「へえ! それも、伝説でげすか?」

 イッパチがまぜっかえすと、女店員は首を振った。

「いいえ、今思いついたんです」

 イッパチはズッコケた。


 世之介は、女店員の囁きを無視して、そっと手を伸ばし、ガクランの布地に指を触れさせる。

 その瞬間、突き刺さるようなある〝意思〟が、指先を通じ、世之介の脳裏に天啓のように閃いた。


 我を纏え!

 我は、そなたと共にある!


 囁きは、まるで命令のようだった。ガクランの命令に、世之介は必死に抗った。自制心を振り絞り、世之介は全身の力を込めて腕を引く。指先が離れ、先ほどの強烈なガクランの〝意思〟は去った。

 はあはあと世之介は息を荒げていた。


「これは、いったい……」


 言いかけたその時、イッパチが呆然と部屋の中を覗き込んでいる茜の背中を思い切り「どん!」と押し込んだ。

 茜は「きゃっ!」と叫んで、勢い良く世之介の胸に飛び込んでくる。

 イッパチはそれを見て、扉を力一杯、閉めてしまった。


 ガチャーン! 虚ろな扉の閉まる音が部屋の中に響く。


 そして──。


 ガチャリ! と外側から鍵が閉められる音が響いていた!

「イッパチ!」

 世之介は叫ぶと扉に取り付いた。ぐっと押すが、びくとも動かない。その時、世之介は扉の鍵は外側しか掛けられないことを思い出していた。


 世之介と茜は、閉じ込められたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ