扉
世之介の額にじっとりと汗が噴き出る。店内は充分ぎんぎんに空調が効いていて、暑くなどないはずなのだ。なのに、なぜか、むっとくるような熱気を感じていた。
女店員は世之介に近々と顔を寄せ、大きく見開いた両目で世之介の両目を見詰める。女店員の黒々とした瞳に、世之介の怯えた表情が映っていた。
さっと女店員は、店内の一角を指差した。
「わたくしはここで、〝伝説のバンチョウ〟が予言したあなたを待っていたのです。〝美湯灰善〟の店長は、代々言い伝えを守り、待ち続けました。今、あなたが現れたのです! さあ、あそこの扉を御覧なさい」
いつの間にか世之介は、森閑とした店内の、どこか倉庫のようなところに連れ込まれている自分に気付いた。積み上がっている荷物は梱包が解かれる前の、段ボールのままで、静けさとともに、少し黴臭い匂いが混じっている。
荷物の隙間に、一枚の扉があった。相当に古びていて、取っ手の辺りには、赤茶色の錆がべっとり浮き出ている。
女店員は震える両手で、ガチャガチャと煩く鍵束を持ち出した。その中から、もっとも大きく、もっとも古びた一本の鍵を取り出した。店員はぐっと唾を飲み込み、鍵の先を扉の鍵穴にこじ入れる。
ぐりっ、と女店員は力一杯、鍵を回した。
ガチャッ……と、鍵が開く音がする。
店員は両手を使って取っ手を引っ張り、扉を開く。
ギイイイ、と軋み音とともに、扉が開かれた。開くと女店員は誇らしげに世之介を振り返る。
「これを御覧なさい!」
世之介は好奇心に駆られ、女店員の指し示した扉の内部に顔を突き出した。