案内
「何か、お探しでしょうか……」
店員の声は囁くようで、よく聞き取れなかった。
イッパチがニタニタ笑いを浮かべ、大声で尋ねかける。
「火炎太鼓、なんてえのは、ござんせんかい?」
店員はそっけなく首を振って答える。
「御座いません。他に……?」
茜は頷いた。
「うん! この人に【バンチョウ】らしい格好をさせたいんだけど」
茜の言葉に、女店員の唇の両端がきゅっと持ち上がり、微笑を形作った。しかし、目は笑っておらず、逆に爛々と光っている。
「【バンチョウ】……この人が?」
ちょろりと唇の間から舌が覗き、舌舐めずりをする。
さっと世之介の全身を、上から下までじろじろと眺めている。顎に手をやり、何か考えているのは世之介の寸法を目見当で測っているのだろう。
やがて大きく頷くと、片腕を挙げ、指先を招くように、くいくいと動かした。
「こちらへいらして下さい……」
相変わらず女店員の声は溜息が漏れるような、力が抜けた口調である。
世之介は女店員の声に誘われたように、ふらふらと歩き出した。ちらりと背後を振り返ると、助三郎と格乃進、光右衛門たちは商品を熱心に見ているところで、世之介の動きには気付いていない。
どうしようか……と世之介は迷ったが、結局は声を掛けることもなく、女店員に誘われるまま歩き出す。