特異体質
父親は腕組みをして目を閉じている。薄目が開き、世之介を流し目で見る。
「お前、初代の世之介様のことは、知っているかえ?」
「へえ、江戸時代の戯作者、井原西鶴ってお人が『好色一代男』ってえ本にお書きになったそうですね」
「わたくしたち但馬屋のご先祖だ。初代様は題名の通り、大変な好色で、なんと九つの頃に初体験を済まされたと、あの本には書かれている。それで、代々の世之介もまた、女好きで続いている」
上目遣いになって世之介は父親に尋ねた。
「お父っつあんも、そうなんで?」
父親は、ふっと苦い笑いを浮かべた。
「わたしは、そんな好色ではないよ。なにしろ、こんなご時世だ。初代様の真似をすれば、たちまち世の非難を浴びる。しかし、お前は記念すべき七十七代目だ。少しは違うと思ったが、やはり、世の習いらしいな。お前、まだ初体験は済ませていないんだろう?」
まともに尋ねられ、世之介の頬がかっと熱くなる。
「それが何です? あっしの初体験が、そんなに大事なことなんですか! 第一、どうして、そのことが判るんです」
「判る」
父親は短く答え、じろりと世之介を睨む。
「さっき、お前の尻を見せろと言ったのは、そのためだ。我が但馬家の男子には代々、ある特異体質が受け継がれている。
普通、赤ん坊の尻は青い。蒙古斑というやつだな。成長するに従い、自然に消えていくが、どういうものか、但馬家の男子の蒙古斑は成長しても絶対に消えない。消すには、女性と〝そのこと〟をしなければならない。だから判るんだ。お前、童貞だろう」