表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウラバン!~SF好色一代男~  作者: 万卜人
世之介の旅支度
79/236

側車

「成る程! 店主の言葉は嘘ではありませんでしたな! これは気持ちのいいものです」


 光右衛門は上機嫌になって、格乃進の運転する二輪車の横に装着された側車サイドカーに乗り込み、風に髭をなびかせ、目を細めていた。

 助三郎の二輪車にも同じ側車が繋がれ、こっちはイッパチが陣取り、物珍しそうに地面すれすれの景観を楽しんでいる。


 世之介は一人で二輪車の把手ハンドルを握りしめ、目を一杯に見開いて、前方を見詰めている。全身に緊張が溢れ、今にも転ぶのではないかという恐怖に慄いている。


 世之介の隣の車線では、茜が自分の二輪車を運転して従っている。茜の二輪車は荒地走行用で、全体に軽快な形をしていた。


 茜の提案で、まず【集会所】に戻り、旅支度を整えることにしていた。【集会所】に戻る前に、その辺をぐるりと散策し、二輪車の運転に慣れる目的で、わざと遠回りをしている。

 今にも転ぶのではないか、という恐怖に、世之介は口の中がからからに乾き、関節が鳴るほど全身の筋肉を強張らせている。


 だが、世之介は知らないが、転ぶ事態など絶対ありえないのだ。


 世之介の乗っている二輪車は、見かけは二十世紀の旧式だが、中身は最新である。電子頭脳が制御する、自立走行機構セグウェイ・システムが組み込まれた二輪車は、操縦者がどんな素人であろうが、無茶な運転をしようが、常に安定した走行を約束する。周囲の状況を把握し、事故が起きそうになると寸前で回避し、的確な運転を保証する。


 したがって、操縦者が眠っていてさえ、手が把手を握りしめている限り、道路上を安全に走行するのだ。把手から操縦者の手が離れると、自然と停止し、支柱が勝手に出て、路上で静止する。完全無欠の安全車なのである。


 番長星の住民は、誰一人この絶対安全機構についての知識は持ち合わせていない。一度も二輪車や四輪車で事故を起こした経験がないので、全員「自分は運転が上手い」と錯覚しているのだ。

 しかも、この星の二輪車は故障というのが、絶対にないのだ。機械の調子が悪くなると、二輪車に装備されている人工知能が自動的に修理を行うし、所々に設けられているサービス・ステーションでも傀儡人ロボットが整備をしてくれる。


 手に入れた二輪車店でも、修理、改造などはすべて傀儡人がしてくれる。人間が必要とされる場面は、本当は何もない。

 世之介が立ち寄った店で、何かの修理をしていたような音は、店主がハンマーでただ、ぶっ叩いていただけだ。

 番長星に伝えられていた地球からの映像資料に、よく二輪車店が登場し、店主が二輪車の修理や改造をしている演技がある。それを見て、番長星の人間は、とにかく大きな音を立てて、ハンマーやバールをぶっ叩けば良いのだと思い込んだのだ。


 当然、そんな真似をすれば二輪車はぶっ壊れるが、文句も何も言わぬ傀儡人たちが、黙々と修理してくれるのでやっていける。


 本当の修理を学ぶのは、じっくりと根気の要る仕事だが、番長星ではとにかく、がさつで、粗雑、大雑把、粗暴が尊ばれる傾向にあり、壊れるほどぶっ叩くのが格好いいということになっているのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ