提案
店主は生き生きとした顔色に戻り、二輪車を次々と指さし、喋り出した。
「うちでは、あらゆる形式の二輪車が揃っていますよ! こっちは荒地走行用で、あっちに並んでいるのが、長距離走行でさあ! で、どんな目的でお使いになられるんで?」
店主の口調は、すっかり滑らかになっている。言葉は標準日本語に近く、やはりさっきの田舎ぽい喋り方は、わざとだったのだ。
茜が店主の質問に答えた。
「【ツッパリ・ランド】に出かけるの」
店主は「ぎくり」と身を強張らせる。
「まさか、本当けえ?」
茜が頷くと、店主は気味悪そうに世之介の顔を見詰めた。
「あんた、だけかい?」
格乃進が一歩、ずい、と前へ出て、一同を代表して答える。
「わたしたち、全員だ。だから、良いのを探してくれ」
「ふうん」と店主は顎を上げ、片手で胸元をこりこりと掻いた。さっさと先に立ち、先ほど長距離用と説明した二輪車の列に立つ。
「【ツッパリ・タウン】は、途轍もなく遠いぜ。だから、この型の二輪車にしなくちゃな! ところで……」
不思議そうに光右衛門とイッパチを見詰めた。
「そちらの二人も、運転するのかね?」
光右衛門は首を振った。
「いえ、わしは、見ての通りの老いぼれ。ですから、助さんか、格さんの後ろに乗らせて貰おうと思っております」
イッパチはぺちん、と額を扇子で叩いた。
「あっしゃ、浮揚機の運転はでけますが、こんな地べたを走る車は、生憎と不調法でござんして、やっぱり若旦那の後ろに乗らせて貰いてえ!」
店主は首を振った。
「二人乗りより、もっといいのがあるぜ。側車ってのがある!」