言葉
「わたくし、地球からまいりました、但馬世之介と申す者で御座います。今日は茜さんの紹介で、二輪車を求めることになりましたので、どうぞ宜しくお願いいたします」
店主はパクリと口を開け、仰け反るような姿勢になった。
「ひゃあ! よっくもスラスラと、くっちゃべるもんだっぺ! おりゃ、一っ言も判んねえだべっちゃ!」
なぜか店主は、茜とはガラリと口調を変えて話し出した。まるでわざと田舎臭い口調を意識しているようだった。
しきりと「だっぺ」だとか「だっちゃ」などを連発する。破裂音の多い言葉は聞き取りにくく、店主の顔には「どうだ、判らないだろう」とでも言いたそうな表情が浮かんでいる。
茜とさっき喋っていたときは、銀河標準語である現代日本語に近い言葉つきだったのだが、世之介が話し掛けた瞬間、がらりと豹変したのだ。
店主は、世之介の言葉は充分に理解できるし、喋れるのだが、それが何だか自分の恥であると固く思い込んでいると見える。
茜は肩を竦めた。
「叔父さん! この世之介さんは【バンチョウ】なのよ! そんな喋り方じゃ、失礼じゃない?」
「【バンチョウ】!」
店主は、さらに頓狂な声を上げた。
さっと赤らんだ顔が青ざめ、ぶるぶると全身が震えだす。
ぺたりと地面に座り込み、世之介の顔を見上げ身を捩るようにして声を上げた。
「す、すみません! 知らないこととはいえ、申し訳ねえ! どうぞ、ご勘弁を!」
世之介は往生した。まったくこの星の人間は、どうなっているのだ! 店主は両手をべったりと地面につけ、土下座の態勢である。
「お手をお上げ下さい。わたくし、妙な成り行きで【バンチョウ】などと言われておりますが、ともかく二輪車を求めたいだけの話しですから」
「へえ?」
店主の顔色がもとに戻った。ひょい、と顔を上げると、さっさと立ち上がる。あっという間の変わり身に、世之介は少々呆れた。