覚悟
世之介は、ぐっと風祭に近づき、声を掛ける。
「そのウラバンとは、何者です? どうして、わたくしが【バンチョウ】だといけないのです?」
風祭は嘲るような笑いを浮かべた。
「それが知りたければ【ツッパリ・ランド】に行くことだ! ウラバン様とは、そこで会える。ウラバン様がお前を前にしたら、どうするか……。楽しみだ!」
光右衛門が厳しい顔つきになって、その場にいた、健史の仲間に命令する。
「あなたがた! さあ、何をしているのです。あなたがたのお仲間の風祭とか申す男が難儀しているのです。助けるのが人情ではありませんか? さっさと連れ帰りなさい!」
光右衛門の命令は威厳があり、咄嗟には逆らうことができないほどの重みがあった。
健史が連れてきた仲間たちは青ざめた顔を見合わせた。
ぎくしゃくした動きで恐る恐る風祭の周りに集まり、手に手を取って、巨大な身体を持ち上げようとする。
が、風祭の身体は賽博格であるためか、よほど重く、びくともしない。助三郎と格乃進は歩み寄ると、風祭の脇に手を入れ、ひょいと持ち上げた。そのままずるずると引き摺って、風祭が乗り込んでいた黒い車に運んでいく。
呆然と見送っていた健史は、世之介の視線に顔を真っ白にさせた。赤くなったり、白くなったり、忙しい男である。
世之介は怒りに燃えていた。
たかが喧嘩に強くなりたいだけの馬鹿な欲望で、自分の身体を賽博格にさせる、この番長星の人間の思慮のなさに、腹を立てていたのである。
かくかくと全身を震わせ、健史はよたよたと後ろに下がった。ぽたぽたと股間から黄色い液体が洩れている。
失禁しているのだ。
「お……お助けっ!」
悲鳴を上げると、転げるように自分の二輪車に跨った。じたばたと、みっともなく動力を入れ、後を見ることなく一散に逃げていく。
逃げ散っていく連中を前に、世之介は静かに【ツッパリ・ランド】を目指す覚悟を固めていた。