音速の戦い
ごんっ!
音に顔を向けると、建物の角が爆発したように飛び散った所だった。
ばさっ、と立ち木の枝が揺れ、めきめきと音を立て幹が折れ曲がる。
ばあんっ! という爆発音に似た音が響く。
多分、音速を超えて動き回っているための、衝撃波だ。
音速を超えると、空気は一瞬にして圧縮され、爆発音に似た音を響かせるのである。
べこっ、と四輪車の外板が凹み、ばあんっと一瞬にして窓硝子に細かな亀裂が走る。
世之介の全身に、冷たい汗が流れる。こんな相手と、自分は戦おうとしていたのか! 知らないこととはいえ、何て無茶だったのだろう。
目の前を、黒い影が何度も一瞬で通りすぎる。多分、どれかが助三郎で、格乃進、風祭の三人なのだ。あまりに素早すぎ、網膜に像を結ぶ暇がない。
「ぐわあああっ!」
魂消るような叫び声、いや、咆哮とも言える雄叫びが世之介の耳朶を打った。道路の真ん中を、巨大な何かが、路面をがつがつと音を立て抉り取り、濛々とした土煙を立てる。
土埃が収まると、風祭の巨躯が、長々と大の字に寝そべっているのを認めた。その両側に、助三郎と格乃進の二人が立っている。
三人の身に纏っていた着物は、完全にぼろぼろに千切れ、僅かな布切れだけが纏いついている。超高速の動きに、ぼろぼろに千切れてしまったのだ。
さらに三人の身体からは、ぶすぶすと燻る白煙が立ち上っていた。音速を超える動きで、空気との摩擦熱が発火点を越えたのだ。
助三郎と格乃進の身体を見て、世之介は二人が風呂に入りたがらなかった訳を、ようやく納得した。
顔と腕など、露出した部分はかろうじて、人間らしい人造皮膚で覆われているが、その他の部分はまさに戦闘用といっていい、ごつごつとした表面の、昆虫の甲羅のような素材で覆われている。恐らく、防弾、防熱素材でできているのだ。
その姿は、傀儡人といっても間違いではない。