世之介の尻
がっしりと両肩を怖ろしいほどの力で押さえつけられ、世之介は身動きできなくなってしまった。気がつくと、背後からイッパチが世之介を羽交い絞めにしている。イッパチは、奇妙な無表情で、世之介に話し掛けた。
「若旦那! 堪忍しておくんなせえ。あっしには、大旦那様に助けて頂いた恩儀が御座います。大旦那様の命令は、絶対なんで」
イッパチが何で従いてくるのかと不思議だったが、これで得心した! 世之介を押さえつけ、拘束するためだったのだ。見かけによらず、杏萄絽偉童は人間を凌駕する馬鹿力の持ち主である。
すっと立ち上がった省吾は、世之介に一礼して背後に回った。省吾さえ裏切った! いや、初めから父親に命じられていたのだろう。
「世之介坊っちゃん。大旦那様のご命令です。失礼で御座いますが、下穿きを取らして頂きます」
「おい! よしとくれ! そんな無体な……!」
抗議の声を上げたが、無駄であった。背後から省吾は無言で世之介の袴を引き抜き、尻を捲り上げる。世之介の越中褌を剥がし、裸の尻を剥き出しにした。
ゆっくりと父親は立ち上がると、廊下に回り、上から厳しい顔つきで世之介の尻を睨みつけた。
世之介は泣き声を上げる。
「お父っつあん! 何で、こんな真似をなさるんで? まさか、お父っつあんにそんな趣味があったとは……?」
じっと睨みつけていた父親は、ふっと視線を逸らすと再び元の席へ戻っていく。はあーっ、と溜息を漏らし、首をゆっくりと、左右に振った。
「もういい」と父親が手を振ると、さっと押さえつけていたイッパチの手が緩んだ。そそくさと世之介は身支度を整え、息を荒げた。
「お父っつあん! 説明して貰いましょう。なんで、こんな無体な真似を?」