義歯
ニタリ……と、風祭が獲物を前にした狼のごとく歯を剥き出して笑った。ぎらり、と朝日に風祭の前歯が光る。
世之介は呆れた。
なんと、風祭の上下の歯は、総て白銀色に輝く義歯であった。鋼鉄製と思われる義歯に、ずらりと金剛石が輝いている。あの歯で噛みつくつもりか?
かちかちかち……。
細かな音が世之介の耳に聞こえている。
気がつくと、世之介は恐怖に震え、奥歯をかちかち噛み鳴らしていたのだった。全身に恐怖が走り、手にした木刀の先端が揺れていた。じっとりと背中に汗が滴るのを感じる。
「行くぞ!」
宣言して、風祭は猛然と世之介を目がけ、突進してくる。まるで闘牛の突撃だ! 風祭の動きは、巨躯に似合わぬ素早いものだった。
世之介は無我夢中で木刀を握りしめ、横に薙ぎ払った。
がつん!
異様な衝撃が世之介の手の平に伝わった。確かに風祭の胴を払ったはずなのに、まるで固い岩を殴ったような手応えを感じる。
ぶわっ、と風祭の右手が世之介の肩に当たる。ただ一振りで、世之介の身体は宙に浮き、したたかに地面に叩きつけられていた。
たったそれだけで、世之介はじーん、と頭に霧が掛かったようになり、視界が揺れる。一瞬、気絶していたのかもしれない。
「待て!」
その時、世之介の前に、助三郎と格乃進が立ちはだかった。
「どいていなさい。世之介さん。どうやらこいつは、あんたに手の負える相手ではなさそうだ」
助三郎が油断なく身構え、叫んだ。
「どういうことです?」
世之介の質問に、格乃進が呟く。
「あいつは人間じゃない! 我らと同じ、賽博格。それも、戦闘用の殺人兵器だ!」