風祭
出てきた人物を一目見て、世之介は驚きに口をあんぐりと開いて見上げる。
大きい。
いったい、あの四輪車のどこにどうやって納まっていたのかと思われるほどの、途方もない巨躯が白日の下に曝されている。
身長は六尺……いや七尺はある。体重も五十貫はありそうだ。薄汚れた学生服に、学帽を目深に被り、のっそりと立っている。
「おめえが【バンチョウ】だと?」
洞窟の奥から轟くような、低い、軋るような声が零れ出る。ぐい、と学帽の庇を撥ね上げ、下から覗く瞳を光らせた。
男の視線を目の当たりにして、世之介はなぜか怖れを感じていた。なんと言うか、非人間的な冷酷さを内包した目の光である。
「おめえが【バンチョウ】なんかじゃ、あるもんけえ! この騙り野郎!」
健史が憎々しく喚く。さっと巨人を振り返り叫んだ。
「風祭さん! この野郎に、本当の【バンチョウ】の恐ろしさを、たっぷり教えてやってくださいよ!」
風祭と呼ばれた男は、重々しく頷いた。ごろごろとした声を上げ、ゆっくりと喋る。
「【バンチョウ】の称号は、ウラバン様だけが与えるものである! お前は勝手に【バンチョウ】と名乗っている。その罪は万死に値する!」
風祭の言葉は、単調で、何か背後からセリフをつけられているかのようだった。声には全く、感情というのが感じられない。
ずしり、と風祭の足が一歩、前に踏み出した。ぐっと腰を下ろし、両手を蟹のように広げ、戦いの態勢をとる。
「世之介さん! これ!」
ばたばたと慌しく茜が駆け寄り、一本の木刀を世之介に押しつけた。世之介は木刀を握りしめ、剣道の構えを取る。