湯当たり
「ああっ!」
世之介は小さく声を上げた。そうだ、イッパチの言葉はもっともだ。イッパチは湯の中で顔を怖いほど真剣にさせ、言葉を重ねた。
「どうすんですよ、若旦那。こんな星で愚図愚図していちゃ、大旦那の仰った廃嫡、勘当が、本当の話しになってしまいまさあ! 尼孫星に行けなくなった今、なんとか番長星の女の子と、ナニしないと……」
「ナニしないとって、何のことだい?」
世之介の頭に血が昇った。心臓がどくん、どくん鼓動を早め、血管に血流がぐわん、ぐわんと流れるのを感じる。
イッパチは世之介の耳に口を近づけた。
「とぼけちゃいけません! 若旦那だって一切、承知でげしょ? あの茜さんって娘は、どうなんでげす? 若旦那が【バンチョウ】ってことになって、茜さんどうやら若旦那にホの字らしいでげすよ」
ぶくぶくと世之介は湯の中に顔を沈めた。今の顔色を、誰にも見られたくない! 今の世之介の顔色は、多分、真っ赤を通り越して猩々緋か、あるいは、どす黒く鬱血になっているだろう。
イッパチは、おっかぶせる。
「若旦那! 男になるんです! あっしは一肌、脱ぎますぜ!」
「お前が? どうやって?」
世之介は「ぷはっ!」と息を吐き出し、顔を湯から上げる。イッパチは心得顔になって一人頷き、にやっと笑った。
「任せておくんなせえ! きっと、若旦那が茜さんとナニできるようにしますから!」
ぽん、と胸を叩くと、イッパチはその場を離れていった。
茜とナニする?
ナニって、つまり……。
「世之介さあん……」
わあん、と反響した茜の声が、女湯から聞こえてくる。
「そろそろ上がるわよお!」
向こうに茜がいる……。女湯にいる、ということは、つまり何も着ていないということだ! 要するに裸だということだ。
茜が裸で……!
「世之介さん、茜さんの仰るとおり、そろそろ上がりましょうか? あんまり長いと、湯当たりしますぞ」
光右衛門がさっぱりした顔つきになって、声を掛けてくる。
世之介は湯から上がれなくなってしまった自分に気付いていた。




