夕日
と、助三郎の姿が世之介の視界から消えた。
はっ、と世之介の動きが止まる。
いつの間にか、助三郎は世之介の握った木の棒の先端に、さっきの小枝を押し当てている。
ただ、それだけなのに、世之介は自分の木の棒を持ち上げられなかった。軽く小枝が押し当てられているだけなのに、びくとも動かない。
世之介は、さっと棒の先端を下げた。つい、と助三郎の小枝も従いてくる。横に払うと、助三郎の小枝はぴったりと寄り添い、どうにも振り払うことができない。
焦りに、世之介の息が荒くなる。
助三郎がさっと棒から小枝を離すと、先端を世之介の首元に押し当てた。
「真剣なら、勝負あった、だな」
世之介はぜいぜいと喘ぎ、恨みがましい声を上げた。
「ずるい……ですよ。助さんは、賽博格じゃないか! 人間のあたしが、敵うはずない!」
「そうかな」
助三郎はぽい、と小枝を投げ棄てた。
「確かに、俺は賽博格さ。人間にはできない、色々な能力があることは否定しない。だが、剣術の基本は同じだ。要は、体捌きってやつさ。無駄な動きをなくし、相手との間合いを常に把握する。これが大事なんだ。お前さんだって、六年間、必死に修行したんだ。それは、きっと身に染み付いていると思う。それを思い出せ!」
助三郎の言葉は胸に落ちた。
その時、背後から茜の声が掛かる。
「風呂に行くよ! 汗を流しな!」
世之介は振り返った。夕日の中に、茜とイッパチが立っている。茜はにやっ、と笑いかけた。
世之介は茜の言葉を鸚鵡返した。
「風呂?」
風呂だって?
番長星の風呂とは、いったい……?