憧れ
「茜! それは……」
父親が言いかけ、口を噤む。
光右衛門は目を鋭くさせた。
「ウラバンと仰いましたな。それは何のことです?」
両親は黙り込み、顔を俯かせる。光右衛門は茜に向き直った。
「茜さん、聞かせて貰えんでしょうか?」
茜は一つ、頷いた。目が真剣である。
「ウラバンってのは、この番長星にいる総ての【バンチョウ】を取り仕切っているの。でも、誰も姿を見たことはなくて、裏から支配するから〝ウラバン〟って、言うようになったの。ウラバンは、番長星の〝暴走半島〟のド真ん中にある、【ツッパリ・ランド】にいるって噂よ。その【ツッパリ・ランド】には、時々空から光るものが降りてくるって話なの。それが地球からの連絡なのか、どうなのかは、知らないけど」
光右衛門は大きく頷いた。
「空から降りてくるものがある、とは聞き捨てなりませんな! どう思います、助さん、格さん?」
供の二人に向けて尋ねると、助三郎、格乃進ともに頷いた。
「ご隠居様、これは一つの手懸りですぞ! 是非とも、茜さんの仰る【ツッパリ・ランド】に出掛けるべきです!」
格乃進が力強く答える。
「拙者……いえ、わたくしも、そう思います」
助三郎も同意した。
世之介は助三郎がうっかり「拙者」と言いかけ、慌てて言い直したのを奇妙に思った。
しかしすぐ、地球への帰還に希望が出てきたことに、不審の思いは忘れてしまった。
「【ツッパリ・ランド】って、どんな場所なんです?」
世之介の質問に、茜はにっこりと笑った。
「ツッパリだったら、一度は【ツッパリ・ランド】の門を潜りたいと思ってるよ! 何しろ、そこには根性の入ったツッパリたちがウヨウヨいるって話だよ!」
茜の瞳はキラキラと輝いている。
ツッパリたちの憧れの場所……。
世之介は茜の言うように、素晴らしい場所だとは、とてもじゃないが、思えなかった。




