呟き
光右衛門は深々と頭を下げ、口を開いた。
「それは丁寧に痛み入ります。それはそれとして、茜さん。一寸、あなたに尋ねたいことがあるのですが、宜しいかな?」
茜は「へえ?」と呟くと、部屋に入ってきて光右衛門の前にどっかりと座り込んだ。正座ではなく、胡坐である。
世之介は、もしここが地球だったら、茜のような仕草をする女の子は、とっくに説教されている場面だなと思った。
光右衛門の隣に膝をついて控えていた助三郎が何か言いたげに微かに口を動かしたが、それでも我慢して、ぐっと堪えている。
「何が聞きたいの? 光右衛門さん」
光右衛門は穏やかに茜に尋ねた。
「地球のことを知っておりますか?」
「地球……?」
呟き、茜は首を捻った。茜の表情は、光右衛門の口にした「地球」という言葉に何の反応もないものだった。茜は「分かんない」と呟くと、首を振る。
その時、布団を運び入れた茜の両親が、もじもじして立っているのに世之介は気付いた。
「あのう……」と父親が口を開く。
光右衛門の視線が茜の父親に向けられた。
「何か、ご存知なのですか?」
茜の父親はぺこりと頭を下げた。
「はい。昔々のことで、何でも番長星にやってきた最初の人たちは、地球から運ばれたそうです。何百年も前の話だそうですが、それ以来、我々は地球と連絡が途切れ、今では昔話になってしまいました。若い者の中には、地球という言葉すら知らない連中もおります。中には、地球というのは、ただの伝説だと主張する者もいるくらいで……」
光右衛門は高らかに笑い声を上げた。
「はっはっはっはっ……。伝説ではありませんよ。わしらは、その地球からやって来たのですから」
「ほおーっ!」と茜の両親は感嘆の声を上げ、床に仲良く座り込んだ。光右衛門は、誰にともなく、話し掛ける。
「番長星にやって来たのは、不時着したからです。ですから、何とかして、わしらは地球へと戻りたい。それには、地球と連絡の取れる場所に行きたいのです。何か、あなたがたで、それについてのお知恵があれば、拝借したいのですが」
茜と両親は顔を見合わせた。両親はしきりに首を捻っている。茜は何かを思い出そうとするように、視線を天井にさ迷わせた。
「ウラバン……」
茜はふと、呟く。茜の呟きに、両親はぎくりと身体を強張らせた。