命令
世之介は無言で頷いた。省吾の態度は普通ではない。緊張感が、表情に表れている。
離着陸場から鋭励部威咤に乗り込み、父親の部屋がある階へと下っていく。部屋は十階ほど下の階にある。
鋭励部威咤の扉が開くと、目の前に玄関があり、上がり框で一同は履物を脱いで廊下に上がった。
しんと静まり返った廊下を、三人は歩いていく。
内庭を眺めながら、長い廊下を歩く。
内庭の天井には、空を模した立体映像が投射され、様々な樹木が植えられ、一見すると、ここが巨大な但馬屋本店の内部であることなど忘れさせる。
父親の部屋の障子前に省吾が膝をつき、声を掛けた。
「大旦那様。世之介坊っちゃんがお出でになられました」
「ああ」と障子の向こうから父親の太い声が聞こえてきた。ついで
「入っておいで!」と返事がある。
省吾は頷き、両手を伸ばして、するすると障子を開く。世之介とイッパチは、桟の手前で膝を揃え、正座した。
十畳ほどの座敷に、父親である七十六代目の世之介が座っている。息子に似ず、河馬のように太っていて、色黒である。膝元には煙草盆が置かれ、父親は難しい顔つきで煙管を咥え、むっつりと煙を口から漂わせていた。
かん、と雁首を煙草盆に叩き付け、灰を落とすと、父親はぐいと首を捻じ向け、じっくりと世之介の顔を眺めた。
「世之介、お前、今年で幾つになったえ?」
「へい、数えで十七で御座います」
「ふむ」
怖ろしく機嫌が悪い。自分が何か、仕出かしたのだろうかと、世之介は怪しんだ。
次に口を開いた父親の言葉に、世之介は仰天した。
父親は「お前の尻を見せなさい!」と命令したのである。