布団
「銀河胃酸? そりゃ、どんな胃の薬でげす?」
イッパチが頓珍漢な質問をする。
光右衛門は「むっ」となって答える。
「胃酸の薬ではありません! 銀河の遺産なのです! 何です、不真面目な……」
光右衛門の怒りに触れ、イッパチは「うへっ」と首を竦める。光右衛門は息を整えると、再び説明を始めた。
「初期の殖民星の中には、奇妙な風習、文化を保持した星があって、幕府はそれらの特殊な殖民星の文化を守るため、銀河遺産を制定しました。独特の文化を保持するため、観光客などの立ち入りを禁止しました。この番長星が銀河遺産なら、我らの救難信号に答えなかったのも理解できます。銀河遺産に指定された殖民星には、正式な代官所、奉行所は設立されておりませんからな」
世之介は、沈み込むような絶望感を味わった。
「そ、それでは、わたしたちは、一生この番長星に囚われたまま、地球に戻ることは叶わないのでしょうか?」
世之介の必死の訴えに、光右衛門は首を振った。
「諦めてはいけません! 確かに幕府の手が及んでいないことは認めます。それでも、保護されていることは確かです。恐らく、無人の監視所か、地球への非常通信手段は確保されていると思っても良いでしょう。だが、それがどこにあるか……」
光右衛門の言葉が途切れると、扉を叩く音がした。光右衛門が「お入りなさい」と返事をすると、扉が勢い良く開き、茜の顔が覗いた。
「お布団、持ってきたわよ。狭いけど、今夜はこの部屋に泊まって頂戴。明日になれば、皆の部屋を用意するから」
茜の背後から、布団を抱えた両親がにこにことした人の良い笑顔を見せている。