追記
あとに残された世之介たちは、無言でお互いの顔を見合わせた。
「やれやれ、少し疲れましたな」
光右衛門が呟き、部屋の窓際に置かれた巨大な寝台に腰を掛けた
「格さん。ちょっと尋ねますが」
ぽつり、と光右衛門が呟く。格乃進はさっと前へ出ると、光右衛門の前に膝まづいた。
「何でしょう、ご隠居様」
「うむ」と一声上げ、光右衛門は何か考え込んでいるらしく、腕組みをしている。やがて眉を上げ、きらりと目を光らせた。
「格さん。あの船室で番長星を探したとき、記録に何か別の資料なり、追記なりを見ませんでしたかな。単に番長星の、位置だけが記録されておったのですか?」
格乃進は、肩に担いだ振り分け荷物を解き始めた。
「実は、船室の記録ですが、万一のことを考え、複写を取っておきました」
格乃進の答えを耳にして、光右衛門は嬉しそうに破顔した。
「でかした! それでこそ格さんです!」
格乃進は荷物から、携帯型の立体映像投影装置を取り出す。手の平に収まるほど小型であるが、機能は充分で、格乃進が操作すると部屋の中央に立体的な星図が投影される。
「これが番長星の主星です。主系列のK型に属し、表面温度は四千度。地球に比べ、やや小型で……」
滔々と並べ立てる格乃進を、光右衛門は慌てて制止した。
「格さん。講義は後にして、まずは番長星のことを教えてくれませんかな」
格乃進は「はっ」と顔を赤らめた。「賽博格でも、顔が赤くなるんだ」と世之介は妙なところに感心した。
「申し訳ありません。それでは、これが番長星で御座います。星図には概略のみしか記載されておりませぬが、一つ妙な追記が……」
番長星を示す印に、光右衛門は身を乗り出した。
「これは……銀河遺産を示す印です! 成る程、これで得心しましたぞ!」