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 食事が終わり、茜は一同を【集会所】の空き部屋へ案内した。時刻は夕方近く。太陽は地平線に傾き、夕日が差し込んでくる。


 番長星の夕日は、地球と違い、琥珀色をしていた。空は珈琲色に霞み、黄土色の雲が掛かっている。


「ここは兄ちゃんの部屋だったんだけど、今は留守なの。もう、半年くらい家を出て、行方不明もいいところだから、あんたら勝手に使ってもいいわよ」


 部屋を見回した世之介は、床が板張りで、畳ではないことに気付いた。壁は漆喰で、和風ではない。全体に殺風景で、家具は洋式寝台ベッドと、あちこち放り出されている鉄亜鈴、芭亜鈴バーベル発条鍛錬器エキスパンダー室内走行器ルーム・ランナーなどが部屋の持ち主の性格を現している。


「お兄さんが、いたんですか?」


 世之介の質問に、茜は頷き、壁にベタベタと貼られている写真を指さした。

「そ、あれが兄ちゃんの、一番新しい写真なんだ」


 指さされた写真をしげしげと覗きこんだ世之介は、それが奥行きのない、完全な二次元の映像であることに気付いた。しかも静止画である。


 今どき、こんな古めかしい画像は珍しい。番長星では、立体動画記録は一般的ではないのだろうか?

 写真には、茜と肩を並べ……いや、男のほうが遙かに背が高く、茜より頭二つ分は飛びぬけている。身長はおそらく、六尺……いや、六尺五寸はあるだろう。古めかしい学生服に、ぼろぼろの帽子を被っている。


 顔には満面の笑みを浮かべているが、あらゆる箇所に古い傷跡が走っている。顎が張り出し、首はひどく太く、身体つきは格乃進と比べても遜色ないほど逞しい。隣に全身を写したものがあって、足下は歯の高い下駄を履いている。写真の男が、茜の兄であろう。


「お兄さんの名前は?」

「勝又(まさる)


 答えて、茜は「ぷっ」と吹き出した。


「おかしな名前でしょ。かつまたかつ、って読めるから、兄貴はひどく気に入っているの。俺は誰にも負けない最強の【バンチョウ】になるって宣言して、家を飛び出したの。今頃、どこで何しているか──。まあ、兄貴のことだから、滅多なことじゃ、くたばるタマじゃないけどね」


 茜は一息に喋り終わると「じゃあね、後で皆の分の布団を持ってくるから!」と手を振って、部屋を出て行った。

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