父親
茜は苛々した顔つきになった。
「母ちゃん! 話はそれくらいにして、食事の用意しなきゃ! この世之介さんは【バンチョウ】なんだよ! 凄いだろ?」
茜の【バンチョウ】という言葉に、女性は驚きの表情を浮かべた。やはり茜の母親だったかと、世之介は一人うんうんと頷く。
「あらまあ、大変!」
母親は口をポカンと開け、ぱっと両手を挙げると、急ぎ足で家の中へ駆け込んだ。家の中から母親の叫び声が聞こえる。
「父ちゃん! 父ちゃん! 茜が【バンチョウ】さんを連れて帰ってきたよ! 挨拶しな!」
どたばたと足音が近づき、さっきの茜の母親が父親と思われる同じ年頃の男性の手を引いて表れた。父親は対照的にひどく痩せていて、度の強い眼鏡を掛けている。
「【バンチョウ】だって?」
眼鏡の奥からまじまじと世之介を見つめてきた。世之介は眼鏡を掛けた人間を見るのは初めてで、ひどく驚いた。この番長星では視力矯正は一般的でないのだろうか?
母親は顔を顰める。
「父ちゃん、そんな眼鏡を掛けていたら【バンチョウ】さんをよく見ることができないだろ! 外しなよ」
「ああ」と頷き、父親は眼鏡を外した。眼鏡のレンズ面に、何かの番組が映し出されている。
これは、テレビなのだ。眼鏡を外し、父親は目を皿のようにして世之介を観察する。
「初めまして。但馬世之介で御座います。茜さんにお世話を頂き、恐縮しております」
世之介は丁寧に頭を下げ、挨拶する。父親は吃驚した表情になった。