剣道
世之介は震える唇から、必死に言葉を押し出す。
「しょ、勝負って、どういうことですか? なぜ、あたしがそんなこと……」
世之介の言葉を耳にして、健史の表情が変わった。
ぷっ、と口の中で息を詰め、全身が細かく震え出す。
「だあーっ、はっはっはっはっ!」
身を折り、爆笑した。ひとしきり笑った後、健史は周りの人間に向け、大声で宣言した。
「聞いたか! このオカマ野郎、あたしだってよ! こいつぁ、本当のオカマ野郎だぜ! こんなオカマ野郎を、茜の後ろに乗せる訳には金輪際いかねえなあ! ぶっとばしてやる!」
どん、と思い切り健史は世之介の胸を突いた。よろよろっと世之介は踏鞴を踏み、背後に倒れ掛かる。
地面にしたたかに倒れこもうとした世之介の背後を支えた手があった。
はっと世之介が振り向くと、格乃進の頼もしい顔があった。
「しっかりしなさい! 怯えるのはよくない」
「へえ?」
格乃進は真っ直ぐ世之介を立たせると、さっと後ろに引き下がる。ぽかんと口を馬鹿のように開けた世之介に、格乃進は言葉を区切るように話し掛けた。
「この星では、腕力で総てを解決する習慣のようだ。降りかかった火の粉は、避けるだけでは解決しないぞ!」
「で、でも……格乃進さん。助けては下さらないので?」
「わたしは、賽博格だ。人間と本気で争うことはできない。そんなことをしたら、相手に大怪我をさせてしまう。君がやるんだ!」
世之介は首を振った。
「無理です! あたしは今まで、唯の一度たりとも、喧嘩なんかしたことないんです!」
格乃進は、にやっと笑いかけた。
「高等学問所で剣道の授業はしたはずだな?」
世之介は頷いた。剣道の修行は、中等、高等の学問所で必須の修行である。
格乃進は言葉を続けた。
「だったら、大丈夫だ。学問所で習った、剣道の授業を思い出せ!」