健史
さっきの頭をつるつるに剃り上げた男が二輪車を寄せてきて、茜に話し掛けた。
声は奇妙な嗄れ声で、がらがらなのに甲高いという親不孝な声であった。
「おい、茜! そいつら、どうすんだよ? 教えろよ!」
男の口調は粘っこく、しつこかった。
じろじろと世之介を見る視線には、はっきりと悪意が見てとれる。
「煩いねえ! 健史、あんたの知ったことじゃないだろう?」
茜はうんざりしたような口調になった。茜の返答を耳にして、健史と呼びかけられた男の目付きがさらに険悪さを増した。
健史は跨っている二輪車を急加速させ距離を取り、道路の真ん中に後輪を滑らせ、急制動をかける。
ききーっ、と歯が浮くような音が響き、健史の二輪車は道路を占拠する格好になって止まった。それを見て、健史と一緒に飛び出した他の二輪車の乗り手も同じように道路を塞いだ。
茜たちは道路を塞がれ、二輪車を次々と停車させる。
がちゃり、と支柱を下げ、茜は素早く二輪車から地面に降りると猛然と喚いた。
「健史! 何を考えてんだ! 死にたいのかい?」
二輪車に跨ったまま、健史は顎を襟にうずめるように引いて、じろりと後席に跨ったままの世之介を睨みつけた。