二人乗り
「まずは、自己紹介と行こうではないか」
杖を握り、光右衛門が口を開いた。
「最初に、わしから紹介させて貰おう。わしは、越後の呉服問屋の隠居で、光右衛門と申す爺いじゃよ。諸国遊楽の漫遊に出たのじゃが、妙なことで、番長星に墜落する仕儀にあいなった。できれば、この星のこと、教えてもらえれば有り難いのじゃが」
少女は困惑しているようだった。視線がきょときょとと落ち着きなく動く。唇を舐め、何か考え込んでいる。
「ふーん。あんたらの言うことは、さっぱり判んないけど、敵じゃないみたいだね。それに、妙な格好をしているし、ここいらの人間じゃなさそうだ。困っているみたいだし、あたいらのヤサに連れて行ってあげよう!」
前後の口ぶりからヤサというのは住処、という意味らしい、と世之介は推測した。
「あんたら、あたいらのバイクの後ろに乗りな! だけど、助平な根性で厭らしい真似をしたら、すぐ振り落とすからね!」
後ろに乗る? つまり、女性の後ろに乗って……!
世之介の頬が熱く火照った。少女は世之介の顔色を見て「ちっ」と舌打ちした。
「なに、赤くなってんだい! まったく、男ってのは……!」
さっさと自分の二輪車に跨ると、顎を上げ、叫んだ。
「乗りなったら! 愚図愚図してるんじゃないよっ!」
把手を握りしめる。二輪車から猛然と、音が響き渡った。おずおずと世之介は少女の背後の座席に跨る。
「行くよっ!」
少女は宣言して、右手をぐいっと捻った。
途端に、弾かれたように二輪車は前方に飛び出した。
「ひえっ!」と悲鳴を上げ、世之介は思わず運転している少女の腰にしがみついていた。