不時着
どどっ、と不意に床が傾斜し、世之介は立っていられなくなって壁に叩きつけられるように転げ落ちた。「ぐぎゃっ!」と、世之介の身体の下でイッパチが悲鳴を上げた。
真っ白な光が、窓から差し込んでくる。窓は天井になっている。つまり客室が傾いているのだ。床が傾斜しているのは、客室の重力場発生装置が働きを停止しているのだ。非常用の動力を使い果たしたのだ。
客室は、最後の役目を果たした。
「皆、無事ですか!」
しっかりとした光右衛門の叫びが轟いた。
格乃進と、助三郎の返事が聞こえる。
「はい、大事ありません!」と格乃進。
「こちらもご同様で……」と助三郎の、ややのんびりとした返事。
「若旦那……ご迷惑でしょうが、あっしの身体からのいておくんなせえ」
身体の下から、イッパチの弱々しい声が聞こえる。世之介は慌てて立ち上がった。
「ふいーっ!」と息を吐き出し、イッパチが目をパチクリさせ立ち上がった。急いで身につけている着物の衣紋を繕う。
番長星に到着する前、一同は普段の着物に着替えていた。
世之介は高等学問所の制服である筒袖に袴。
光右衛門は辛子色の着物に袖なし羽織、野袴に頭巾という装束であった。
助三郎に格乃進もまた手甲脚半、振り分け荷物という旅支度を整えている。イッパチは、いつものように手に扇子を握っている。