墜落
世之介が疑問の表情を浮かべたのを見てとり、格乃進は笑いながら説明した。
「我らは賽博格だという事実を忘れては困るな。助三郎の人工眼球は、様々な波長の電磁波を感知できるのだ。分光観測など、お手の物なのだ」
側で聞いていたイッパチが、ちょっと拗ねたような表情になって呟いた。
「そんなことくらい、杏萄絽偉童のあっしだって、できまさあ! ただ幇間というお役目柄、しゃしゃり出ることを控えているだけでげすよ」
イッパチの口数が多い。不安に駆られている証拠である。もちろん、世之介も同じだ。これから、格乃進の説明した最後の手段を採らなければならないのだ。
さすがに光右衛門は最長老だけあって、表情には何の不安も、一欠片だって表れていない。しっかり
と床に立ち、片手に旅の杖を軽く握りしめている。
「それでは格さん、助さん。そろそろ参りましょうか」
光右衛門の皺枯れた声が、意外とはっきりと、世之介の耳に届いた。
はっ、となって世之介は光右衛門を見た。いつの間にか、ボケッと番長星を眺めているだけの自分に気付く。
格乃進は「では」と、軽く頷いた。格乃進の指先が操作卓の上で踊った。
待って! と言いかけた世之介の口がぎりぎりで止まった。もう、遅い。
ぐーっ、と番長星が近づいてくる。いや、こちらから近づいているのだ。
窓が真っ赤に燃え上がった。大気圏に突入したのである。もちろん客室の温度調節は完璧で、熱さなど全く感じることはない。
窓の外の大気が白く輝いた。高温で、空気中の原子から電子が遊離している。もう、惑星の表面は見分けることができない。
さらに──