大人
世之介は怒りに顔が火照るのを感じた。
「そうかい……そんなに見たいなら、見せてやろうじゃないか!」
勢いで、その場で尻を向け、袴を脱ぎ去り、尻ぱしょりをして見せる。ぐいっと褌を降ろし、尻を突き出す。
「さあ、これが俺の青痣だ! とっくりと拝みやがれっ!」
しいーん、と静寂が支配する。
ぽつり、と光右衛門が呟いた。
「どこにあるのです? 青痣など、見えませんが」
「えっ?」
世之介は急いで振り向く。父親の七十六代目・世之介は目を丸くしている。
「お父っつあん?」
父親は、ぶるぶると首を忙しく振った。
「無い! お前の青痣が消えている! お前、いつ初体験を済ませたんだ?」
父親の目が、その場で呆然と立っている茜に向かった。「ははあーん」と一人で納得した顔つきになる。
「そうかい、そういう次第かい……お前も、ご先祖様に恥じず、手が早い……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! あたしゃ絶対、そんなこと……」
話題の茜は目を怒らせた。ある考えが茜の脳裏に浮かんだようだった。
「あたしも聞きたいわ! まさか、狂送団の女たち……!」
「馬鹿を言うな!」
世之介は絶叫した。急いで衣服を元に戻すと、両手を広げ喚く。
「俺は、ずっと〝伝説のガクラン〟を着ていたんだ! 脱ぐこともできなかった! そんな真似、出来るわけない!」
光右衛門が「かっかっかっかっ!」と乾いた笑い声を上げた。
「世之介さんは、大人になったのです! 初体験をしようが、しまいが、立派な大人に番長星で成長したので、青痣が無くなったのでしょう。但馬屋さん、世之介さんは立派な跡継ぎになりました。違いますかな?」