土下座
「世之介!」
「お父っつあん! どうして?」
「御老公様の通信で、お前がここにいることを知らせて貰ったのだ。大慌てで、御用船に飛び乗って、この──番長星──まで来ることができた! 心配したぞ!」
一息で捲し立て、父親は太った身体を折り曲げ、苦しそうにぜいぜいと荒い息を吐き出した。
ちらりと世之介の背後に立っている杖を手に持った老人を見て、顔色を変えた。
「これは、御老公様!」
ぺたりと膝をつき、土下座する。光右衛門は膝を下ろし、優しく肩に手をやった。
「但馬屋さん。お立ちなさい。わしはこの場では、ただの越後屋の隠居。微びの旅でございますからな、そのような大袈裟な真似は迷惑ですぞ!」
「へえ……?」
ゆっくりと父親は顔を挙げ、立ち上がる。光右衛門は思い出した、という顔付きで話し掛けた。
「そういえば、息子さんに十八の春を迎える前に初体験を済ませなければ廃嫡、勘当を申し渡すと申し渡したそうな」
光右衛門の指摘に、父親は顔を真っ赤にさせ、恥じ入った。
「そ、それは……」
「なんでも、息子さんは十七になっても尻の蒙古斑が消えず、初体験を済ませないと消えないと聞きましたが、本当ですか?」
父親は巨体を大いに縮めて見せた。
「は、それが但馬屋代々の体質でございまして……」
「見たいですな。その青痣を」
光右衛門の言葉に、世之介は仰天した。振り返ると、光右衛門は大真面目であるが、背後の助三郎、格乃進は笑いを堪えるのに必死だ。