焚き火
校舎の裏手から校庭へ出る。すでにとっぷりと日は暮れ、見上げると光帆の月が出ている。
校庭から楽しげな笑い声が聞こえ、世之介は首を傾げた。
見ると校庭の真ん中に焚き火が置かれ、その周りでは数十人の老若男女が輪になって座り、和やかな雰囲気で談笑している。
どっと笑い声が上がり、そちらを見ると、なんとイッパチが手足を可笑しな角度に動かし、奇妙奇天烈な踊りを披露している。
ひょこひょこと腰をくねらせ、手足をあらぬ方向に突き出し、顔はポカンと呆けたような表情である。見ているだけで、笑いが込み上げてくる。
イッパチの踊りを見物しているのは、さっきまで助三郎と格乃進に向かって襲い掛かってきた連中だ。見物人の一番前には、茜が陣取り、イッパチの剽軽な仕草に、腹を抱えけらけらと高い声を上げ、笑っていた。
校舎の近くに【バンチョウ・ロボ】が、ずんぐりとした巨体を休めている。ロボの周りには物見高い群衆が取り囲み、勝又勝が熱意を込めてロボの性能を説明していた。
集団の中に、光右衛門と助三郎、格乃進が座っているのに気付き、近寄る。三人の後ろには、木村省吾が虚ろな顔付きで、騒ぎをじっと見詰めていた。表情は虚脱していて、世之介を認めても、何の感情も浮かばない。
「おお、世之介さん。ガクランを脱いで、元の姿に戻ったのですな!」
世之介の姿を認めて、光右衛門が話し掛けてきた。世之介は頷き、尋ねる。
「この騒ぎは? えらく陽気だけど」
光右衛門は肩を揺すって笑い出した。
「突然、ガクラン、セーラー服を身に着けた人間の攻撃衝動が消え去ったのですよ! 皆、自分が何をしていたのか、さっぱり判らないという様子でしたな。世之介さんの活躍だと推察するのですが、そうですな?」
最後に念押しするように見詰める。世之介はあやふやに頷き、微小機械の構築した仮想世界での出来事を話した。
が、茜の幻影のことは黙っていた。光右衛門は大いに納得した様子で、何度も大きく頷いていた。