囁き
結節点が集まり、密度が濃くなり、ある形に纏まっていく。世之介は愕然となった。
微小機械は茜の姿を取り始めたのだ。
──世之介さん……。
茜の瞳が、熱っぽく世之介を見詰める。唇が半ば開き、目を閉じ、頬がほんのり紅潮した。
──キスして……。
世之介の全身が、かーっと熱くなる。微小機械が囁いた。
──〝伝説のガクラン〟を身に着けている限り、世界はお前のものだ。それに、この娘も──娘が欲しくはないのか? 女という女は、お前の奴隷となるんだぞ!
微小機械は、狂送団の首領の妻たちの姿を見せてきた。数人、いや数百という女たちが、世之介に向けて色っぽく身体をくねらせ、おいでおいでをしている。
目を背けるのは不可能だった。目を閉じようとするのだが、微小機械は仮想空間での世之介の随意反応を制御し、瞼を閉じるという簡単な動きすらさせてはくれない。
対抗できるのは、意志の力のみ!
世之介は全身全霊を込めて反発した。
──俺は──伝説の──ガクランなど──欲しくはない!
まるで決壊した奔流を、素手で塞ごうとしているような、頼りない抵抗であった。が、世之介はありったけの意思の力を振り絞り、微小機械の誘惑に耐えた!
僅かではあるが、世之介の腕が動き始めた。指先が、ガクランの釦に掛かる。
指が釦を弄った。
──あと少しだったのに……。
微小機械が、悔しそうな溜息を漏らした。
世之介は解放された!