杖
光右衛門は回想するような口調になった。
「初めて会った頃のあなたは、何事にも自信がなく、臆病そうでした。戸惑いが、常にあなたの周りに取り巻いておりましたな。しかし〝伝説のガクラン〟を着たあなたは、別人に変わった。いや、本来のあなたの性格が表に出た――と、わたくしは思っております」
光右衛門は自分の杖を掲げた。
「わたくしは老人ですから、これ、このように杖を必要とします。あなたのガクランは、ちょうどそのように精神的な杖として役立ったのでしょう。しかし、世之介さんはお若い。若いあなたが、いつまでも杖にすがるのは、どうかと思いますぞ!」
〝伝説のガクラン〟は、俺にとっては杖なのか……。
光右衛門の言葉に全面的に反発したい気持ちと、心のどこかで深く納得している自分に、世之介は引き裂かれていた。
世之介は、光右衛門を見詰めた。光右衛門の背後には、茜とイッパチ、省吾の三人が、息を潜めて二人の会話に耳を欹てている。
徐々に世之介の心に、ある決意が漲った。
光右衛門に向かい、呟くように返事をする。
「判ったよ……光右衛門さん。いや、御老公様!」
光右衛門は「くっく」と小さく笑った。
「いつものように『爺さん』で結構!」
世之介は笑い返した。
「そうだな。今更、御老公なんて言い難いや! 爺さん、俺は決めたぜ!」
ふっと、溜息を吐くと、世之介は目を閉じた。自分の精神を、微小機械の電網に接続する。