焦り
助三郎と格乃進は、殺到する〝伝説のガクラン〟〝伝説のセーラー服〟を身に着けた群衆に向かって駈けていく。
群衆は皆、敵意を剥き出しにして、何か訳の判らない喚き声を上げながら二人に襲い掛かった!
「こうしちゃ、いられねえ!」
茜の兄、勝が目を剥き出し、顔には戦いへの喜びを顕わにし、くるりと背を向け走り出した。
校舎の裏手へ駆け込むと、すぐ【バンチョウ・ロボ】がどすどすと足音を響かせ、姿を現した。勝が搭乗したのだ。
「うおーっ!」と【バンチョウ・ロボ】は勝の雄叫び声を轟かせながら、全速力で二人の賽博格の戦いの中へと飛び込んでいく。忽ち【バンチョウ・ロボ】の巨体が、群がる暴徒を蹴散らし、次々と悲鳴が上がった。
「もう、お兄ちゃんったら、喧嘩となると、目がないんだから……」
茜はぼやいたが、それでも興奮に頬を染めている。
世之介は焦燥感に、じりじりとなっていた。
自分も何とかしたいと思っていたが、いかんせん世之介の本体は【リーゼント山】の制御室に横たわり、立体映像を投射しているだけである。指一本たりとも、触れることはできない。
「どうすりゃいいんだ……」
呟いた声を、水戸光邦──いや、今までと同じ光右衛門と呼ぼう──が聞き咎めた。