威光
「この御方をどなたと心得る? 前の中納言、銀河の副将軍、水戸光邦公にあらせられるぞっ!」
助三郎がずい、と前へ踏み込み叫ぶ。
「ええいっ! 頭が高いっ! 控えおろう──っ!」
静寂が、その場を支配していた。
全員、目を虚ろにし、じーっと光右衛門、助三郎、格乃進の三人を見詰めている。
一人のガクランを着た男が呟いた。
「あいつら、何を言っているんだ?」
格乃進が投射した三つ葉葵の紋所は、空中にハッキリとした形で浮かんでいる。投射された映像を見上げ、その場にいた全員は、首を捻っていた。
「あのお爺ちゃんが、何なの?」
茜がぼんやりと呟く。世之介は、まじまじと茜の顔を見つめた。茜の顔には、何の驚きも浮かんでいない。
世之介は悟った。
番長星の人間は、将軍家の威光というのを知らない! これが他の、幕府の支配を受ける殖民星なら、即座に三つ葉葵の紋所が意味する所を悟り、大いに恐れ入るのであろうが、番長星の人間にとっては、全く意味がないのだ。
イッパチと、木村省吾はすでに格乃進の叫んだ言葉を理解し、とっくに土下座をしてガタガタ震えているというのに、校庭にいる全員は、何の感動もなく、ぼんやりと三人を見ている。単に、賽博格の出した驚くべき大音声に、度肝を抜かれただけだった。