三つ葉葵
その様子を厳しい目付きで見ていた光右衛門は、無言で杖を手に歩き出す。光右衛門が近づくと、制服を身に着けた男女が、敵意を顕わにして近づいてきた。
「なんだ、爺い! あっちへ行け!」
近づいてきた一人の額を、光右衛門は発止と手にした杖で叩いた。叩かれた相手は「うわっ」と悲鳴を上げ、飛び退いた。それを見て、周りの人間が怒りに伝染したように、次々と飛び掛っていく。
光右衛門は、杖を揮って次々と打ち払う。助三郎と格乃進もまた、光右衛門の周りを固め、素手で飛び掛ってくる相手を打ち据えている。
たちまち三人の周りには、打ちのめされた相手が、呻き声を上げ横たわった。
光右衛門は助三郎と格乃進に声を掛ける。
「助さん、格さん。もう、宜しいでしょう」
「はっ! ご隠居様!」
格乃進は力強く頷くと、すっくと光右衛門の前に立ちはだかり、大音声で叫んだ。賽博格のみが出せる、人間離れした音量である。
「控えよ! 控え、控え──いっ!」
助三郎も大口を開け、大声を上げる。
「ええいっ! 静まれ、静まらんか!」
二人の賽博格の出した大声に、その場にいた全員の動きが止まった。皆、ポカンとした表情で、三人を見守っている。
格乃進は、立体映像投影装置を取り出し、空中に映像を掲げ叫んだ。
「この紋所が目に入らぬかっ!」
立体映像投影装置が投射したのは、巨大な「三つ葉葵」の紋所であった。