乱痴気騒ぎ
校舎の建物を回って校庭──駐車場になっている──へ出ると、乱痴気騒ぎが始まっていた。
だだっ広い校庭の真ん中には色とりどりの衣服が山積みにされ、無数の男女が夢中になって衣服を手に取り、試着している。
時刻はすでに夕刻近く、橙色の空を背景に、蠢く男女は黒々とした影に見えていた。駆け込んだ光右衛門を先頭に、一同は呆然と立ち尽くす。
イッパチがあんぐりと口を開け、叫んだ。
「いってえ、何がおっぱじまったんで?」
助三郎が両目を光らせ、呟いた。
「奴らが手にしているのは、制服だ! 学生服に、セーラー服らしいな……」
助三郎の言葉通り、山積みになっているのは様々な色、デザインの学生服とセーラー服であった。山に群がった男女は、頬を興奮に真っ赤に染め、手に触れた服を大慌てに身につけている。
木村省吾が「あっ」と叫んだ。
「あれは……わたくしが計画していた〝伝説のガクラン〟〝伝説のセーラー服〟計画の制服です! 微小機械に生産させ、番長星の全員に行き渡らせる積りだった……」
制服の山に取り付いている男女は、手にした服を身に着けた途端、ぱっと顔を輝かせ、胸を張り、全身に自信を漲らせて大股で歩き出す。
服を身に着けた同士、顔を合わせると、ばちばちと視線に火花を散らし、大声で怒鳴り合う。
「俺は〝伝説のバンチョウ〟だ!」
「何を言う! 俺こそ〝伝説のバンチョウ〟だぞ!」
「なにいっ!」
お互い敵意を顕わにし、歯を剥き出し、啀み合う。
男ばかりではない。セーラー服を身に着けた女同士、同じような場面が展開していた。
「あたいが〝伝説のスケバン〟だよっ!」
「馬鹿ぁ言ってんじゃないよっ! あたいこそ〝伝説のスケバン〟だよっ!」
あちこちで取っ組み合いが始まっていた。わあわあと喚き声と、激しい罵り合いの声が入り混じり、阿鼻叫喚の巷である。