音
「お兄ちゃん! いつまで馬鹿な真似をしているつもり? さっさと出てきなさいよっ」
茜だった。茜は【バンチョウ・ロボ】の前面に飛び出し、憤慨した様子で腰に手をやり背筋を伸ばして睨みつけている。
【バンチョウ・ロボ】は困惑した様子で、自分の頭を掻いていた。
「ちぇっ! いいところで、お前が出てくるとは……」
それでも【バンチョウ・ロボ】は渋々と膝を地面に突いた。胸がぱくりと開き、操縦席が顕わになる。
内部から勝が、ひょいと軽く跳躍して外へと飛び出した。茜は胸一杯といった表情で兄の勝の顔を見詰める。
見詰められ、勝はバツが悪そうにポケットに両手を突っ込み、爪先で小石を蹴って、顔を背けた。どう見ても、大人の仕草ではない。
茜の背後から、光右衛門、イッパチ、木村省吾が近づいてくる。イッパチは満面の笑みを浮かべ、口を開いた。
「これで目出度し、目出度しでげすね!」
光右衛門は微かに首を振る。
「さあ、それはどうでしょうかな?」
全員が光右衛門の意外な言葉に「えっ」と注目をする。注目を浴び、光右衛門は何かに耳を澄ませているような仕草を見せた。
「あれは……あの音は、何でしょう」
光右衛門の言葉通り、不意に「どおおおっ」と聞こえる津波のような音が湧き上がる。
全員が黙り込み、聞こえてくる音に神経を集中させる。
省吾がポツリと呟いた。
「校庭の方角から聞こえますな……」
全員の視線が校舎に向かった。