追体験
世之介の江戸にも、虐めはある。世之介自身も、虐められた記憶も、虐めた事実もあった。
が、保護者らしき大人が、虐めを目撃し、大笑いをして制止すらしないという状態は、断固有り得ない。
番長星では「男らしさ」が価値の総てで、一旦「根性なし」と評価されたら、最悪の事態を引き起こす。
風祭の記憶を、世之介は次々と体験していく。子供時代、青年時代と、風祭は様々な同じ年頃の相手に、しつこい虐めを受けていた。
助けを求める相手は、唯の一人も現れなかった。目撃したとしても、虐められるほうが悪いと断罪され、救いはまるでなかった。
虐めを受けるうち、風祭の胸に、ふつふつと復讐心が芽生えてくる。
誰にも馬鹿にされたくない! 舐められたくないという欲望は、自身を賽博格にしてしまうほどだった。
風祭にとって「弱さ」は即、死を意味するものだった。強さだけが総てであった。
世之介は風祭の記憶の扉から離れ、微小機械が形作る仮想空間に漂った。無数の微小機械が接点を繋ぎ、じわじわとある形を取り始めた。世之介は目を見開いた。
微小機械が呈示したのは、風祭の姿であった。最初に出会ったときの、賽博格としての風祭の姿であった。
世之介もまた、自分の姿を仮想空間で顕していた。世之介と風祭は、何もない空間で向き合った。お互いの視線が火花を散らす。
風祭は世之介を認め、怒りの形相を現し、吠え立てた。