仮想現実
微小機械の無数の〝声〟が津波のように押し寄せ、世之介は一瞬、我を失っていた。
まるで、百万人もの人間が一斉に声を発し、勝手なことを喋っているのを、一度に耳にしているかのようだった。
──働け、働け、もっと働け!
──原料が足りない! もっと原料が欲しいよ……。
──俺は、もっと作りたい! 誰か、俺に注文してくれ!
世之介は耳を塞ぎたい気分だった。自分の耳がどこにあるのやら、見当もつかない。
ともかく、何かしら世之介と意思を伝え合える存在を求め、ぐんぐんと先に進む。そのうち、世之介の視界に、微小機械が作り出す社会が見えてきた。
しかし、あくまで仮想的なものであり、現実の存在ではないことはわきまえている。
微小機械は無数に繋がった、網の目のような構造を保持していた。網の目の一つ一つが無数の情報を伝え、情報は一気に微小機械一つ一つの単位に伝わっていく。
微小機械一つ一つには、意思はない。だが、ある程度の規模になると、人間のような意識ができているようであった。
世之介は、それらの意識を丹念に点検していく。だが、どれも、自分だけの作業に没頭している様子で、世之介の語りかけには一切、答えようとはしない。
世之介は焦りを感じていた。これでは、せっかく意識を投射しているのに、空回りもいいところだ。
どれか一つくらい、世之介と話し合える意識はないのだろうか?