進路
羽織姿になった世之介は、再び自分の席に戻り、次々と卒業生の名前が呼び出されて式が滞りなく進行して行くのを、待ち受ける。
講堂の高い場所から開けられた連枝窓からは、暖かな春の日差しが差し込み、じっと身動きもせず待っていると、ついうとうとと睡魔が襲ってくる。
但馬世之介は同じ名前で七十七代目で、初代世之介は本物の江戸時代に生を受け、初代の活躍は井原西鶴によって「好色一代男」となって有名になった。
あれのせいで世之介はさんざんからかいの対象になった。親爺もいい加減、世之介なんて名前付けるのを止めにすれば良いのに……。
卒業式の最中、ぼんやりと世之介はそんなことを考えていた。
これからの進路について世之介は五里霧中であった。
本来なら卒業式の数ヶ月前から進路を決め、今頃は上の学問所に進むか、他の専門学校に進むか、それとも社会に出るか決めなければならないのだが、世之介は何をするでもなく、ついウカウカと卒業式を迎えてしまったというわけである。
なにしろ世之介はお坊ちゃまだ。但馬家は幕府出入の御用商人で、世之介は何不自由なく育ってきた。御用商人というのは、幕府主導の国家計画に資材や、人員を提供するお役目である。当然、利潤も大きく、代々商売を手広くして、今に至っている。
遂に卒業式は終了し、居並んでいた卒業生たちから安堵の吐息が漏れた。校長以下、師範たちが退席すると、一気に解放感が横溢し、会場はざわめいた。