自信
世之介の顔がかーっ、と火照ってくる。多分、耳まで真っ赤なのだろうと自覚する。
「それで、その星へあたしを行かせようというのだね? 尼孫星とやらへ行けば、こんなあたしでもモテモテで、すぐに童貞を捨てられるって算段だろう?」
省吾は鼻を擦った。可笑しそうに肩を揺する。
「若旦那なら、おもてになりますとも! こう言っては何ですが、若旦那は、男のわたしが見ても、良い見映えの殿方で御座います。
足りないのは自信で御座いますよ。いきなり一年で童貞を捨てろなど、大旦那様は仰いますが、今の若旦那には少し、自信というのが足りないようで。ですから尼孫星へお出でになって、自分は女性におもてになる、という自信をお持ちになって頂きたいのです」
側で聞いていたイッパチが、にまーっと開けっ広げな笑顔になった。
「尼孫星! よござんすなあ! その星へ行けば、当たるを幸い、女どもを若旦那は撫で斬りになすって、たった一年で千人斬り、なんて素晴らしいことに……。いや、楽しみでござんす!」
省吾はイッパチを叱り付けた。
「イッパチ! 遊びじゃないよっ! 若旦那が廃嫡勘当になるかどうか、という瀬戸際なんだ。浮かれているんじゃない!」
イッパチは空気が抜ける風船のように、ショボンとなった。
省吾は世之介に顔を向け、話を続ける。
「尼孫星の立ち入りは、幕府によって厳しく制限されております。
特に尼孫星からの出星は監視されておりますので。
もし、尼孫星の女が一人でも外部に出たら、その子孫がどんどん女の赤ん坊を産んで、銀河系の男女の均衡が崩れるのではないかと、危惧されております。
俗に〝入り鉄砲に出女〟などと称されております。この場合、入り鉄砲とは運び込まれる冷凍精子のことで御座いますな。出女とは、言うまでもなく、尼孫星からの女のことで御座います。で御座いますから、入星手形の取得には、色々苦労が御座いました」
省吾はそれ以上、口を開かなかったが、世之介はあれこれと想像した。多分、袖の下か何かを役人に掴ませたんじゃないか、と思った。
省吾は、じっと世之介を見詰める。
世之介は頷いた。
「お前の言うとおり、尼孫星とやらへ出かけよう……。とにかく、お父っつあんに、あたしの尻が普通になったところを見せてやる」