通行手形
中から出てきたのは、一枚の通行手形であった。将軍府の割り印が押捺され、細かな字で、びっしりと何か書かれている。
「それは、尼孫星への通行手形で御座います。尼孫星のことはご存知で?」
世之介は、再び首を振った。
「いいや、知らない。尼孫星てのは、どんな星なんだね」
省吾の片頬に、さも得意そうな笑みがこぼれる。
「女だけの星で御座います。別名〝女護が星〟などと言われておりますな。どういう訳か、この星では、唯の一人も男の赤ん坊が産まれないそうで。生まれるのは全部、女の赤ん坊と決まっております」
世之介は思わず、目を瞬かせた。
「そんな馬鹿な! 女しか産まれないんじゃ、どうやって子孫を増やせるんだい? 赤ん坊が産まれるには、男と女が必要だって、あたしだって知っているよ」
省吾は身を乗り出した。
「さあ、そこで御座います。
何でも、この殖民星の最初の計画に、何か重大な間違いがあったらしく、産まれて来るのは総て女の赤ん坊となってしまいました。
女たちの遺伝子に何か間違いがあったのかどうかは、今でも議論されておりますが、このままでは子孫が絶えるとなって、幕府は救済策を施しました。
それが、冷凍精子を運ぶ特別便で御座います。男がいなくとも、精子があれば何とかなります。あそこでは男は、どんなヨボヨボの爺さまだろうが、目も当てられない醜男だろうが、モテモテになるそうで御座いますな」