障壁
「ああ、良かった! やっとちゃんと話せるようになったわね!」
途端に、今までびゅうびゅう音を立てていた風きり音がぴたりと止まり、隣の車線で二輪車を走らせている茜の言葉が、はっきりと聞こえてきた。
世之介は最初に番長星に到着して、茜の二輪車の後ろに乗せてもらったとき、やはり同じように風きり音が全然、聞こえていなかったことを思い出した。
「なんで騒音が止まったんだ?」
世之介の背後から、格乃進が声を掛けてきた。
「二輪車の周りを、超音波の障壁が取り巻いている。同時に、われわれの声も、自動的に無線機で交信できるようになっている。だから、お互いの声が、はっきりと聞き取れるのだ」
成る程、と世之介は感心した。
と、前方から、工事作業車がゆっくりとした速度でやってくるのに気付く。運転しているのは総て傀儡人である。
作業車は世之介の目の前を通り過ぎた。世之介は側鏡で作業車が【集会所】に向かっているのを認めた。
「ありゃ、なんだい?」
茜に叫ぶと、すぐ答が返ってくる。
「あんたらが空けた壁の穴を、修理に来たのよ。珍しくもないわ」
茜は無関心であった。世之介は密かに頷いた。そうか、番長星ではあらゆる修理や、修繕は、傀儡人が担っているのだろう。
辺りを注意深く眺め渡すと、あちこちに傀儡人の姿が散見される。畑の真ん中で農作業している傀儡人。道の両側に並んでいる様々な店先で、人間の店員に混じって立ち働いている傀儡人……。
舗装路を修復している傀儡人もいた。道路が、常に新品同様になっているのも、傀儡人が倦まず弛まず、修復作業を続けているせいだ。
番長星は傀儡人によって成り立っている……。
世之介はふと、奇妙な考えを弄ぶ自分に気付いていた。