目的
それまで黙っていた茜が、顔を上げた。
「あの……」と躊躇いがちに声を上げる。
光右衛門は素早く茜の躊躇いを見てとり、優しく声を掛けた。
「何ですかな、茜さん」
茜は大きく息を吸い込んだ。
「あたしも、【ツッパリ・ランド】に行きたい!」
「茜さん!」
助三郎と、格乃進が同時に声を上げた。
茜は決意を秘めた表情をしている。
「風祭って人は、最強のバンチョウを目指して賽博格になったって言ってた。あたしのお兄ちゃん──勝又勝──も、やっぱり最強のバンチョウを目指すって言って、家を出て行った。もし、お兄ちゃんが【ツッパリ・ランド】を目指していたら……」
助三郎は「わが意を得たり」とばかりに大きく頷く。
「茜さんの言うとおりです。わたしども助三郎と格乃進は、戦闘で身体の半分以上を失い、やむを得ずこのような身体になりましたが、失ってみて初めて、生身の身体が貴重なものか悟りました。この星の人間は、ただ強くなりたいという単純な理由で、遊び半分で賽博格手術を受けるなど、許せません! 茜さんのお兄さんのためにも、【ツッパリ・ランド】を目指すべきでしょう」
世之介は立ち上がった。
不意の世之介の動きに、全員が注目する。
「それじゃいつまでも、ここでボケッとしていねえで、さっさと二輪車に乗り込もうぜ! さあ、出発だ!」
さっと茜に近づくと、手を伸ばし、茜の顎に手をやった。世之介の仕草に、茜は目を丸くした。
「茜! 俺がお前を【ツッパリ・ランド】に連れて行ってやるぜ!」
ニタリと笑い掛ける。茜の顔は、見る見る真っ赤に染まった。
さっさと外へ出て、世之介は空気を吸い込み「うーん」と大きく伸びをした。
なんだか、やたら気分が良かった。
何でもできそうな、そんな自信が津波のように押し寄せる。
【ツッパリ・ランド】か……。
世之介は、ひどく楽しみだと感じていた。