食欲
一同は家族食堂に移動して、世之介の食欲を満たすため、料理を大量に注文した。
がつがつと、手掴みで世之介は出される料理を、次から次へと口へ運び、無心に咀嚼して飲み込んでいた。
いくら食べても食べても、空腹が収まる気配がない。際限のない世之介の食欲に、全員呆気に取られ、ぼんやりと見守っていた。
「糞! 面倒だ!」
がらがらと目の前に積み上げられた料理の皿や器を薙ぎ倒し、世之介は立ち上がった。せかせかと料理場に足早に近づいていく。
イッパチが仰天した表情になって従ってきた。
「若旦那、どうなさるつもりでげす?」
「煩いっ!」
苛々と世之介は怒鳴ると、調理場に入り込み、目の前に並んでいた瓶を取り上げた。
中には、オリーブ・オイルが詰まっている。ぽん、と蓋を弾くと、瓶の口を逆さにして、どぼどぼと食用油を垂らしこむ。
ぐび、ぐび、ぐびと喉を鳴らして油を飲み干し「ういーっ!」と呻いて口元を拭った。
一本を空にすると、次の瓶を鷲掴みにして、これもあっという間に空にしてしまう。数本分の食用油を飲み干し、ようやく空腹が収まった。食用油はカロリーの固まりである。
足音高く自分の席に戻ると、ふっと息を吐き出した。
ぼけっと世之介の所業を見守っている仲間たちに向け、唇を捻じ曲げ皮肉な笑みを浮かべて見せた。
「なんだよ、お前ら。文句あるのか?」
「いいや……別に」
ようやく助三郎が答える。格乃進が首を振った。
「大変な食欲だな。多分、着ている学生服が、世之介さんの代謝を変えているのだ。爆発的な体力を与える代わり、大量の食糧を必要とさせるのだろう」