頭髪
「俺が?」
世之介は指を挙げ、自分の顔を指差した。
茜がゆっくりと頷く。
ポケットから小さな手鏡を取り出し、世之介に押しつける。
「自分の顔を見てみなさいよ。あんた、本当に別人だわ!」
世之介は茜から手鏡を受け取り、開いた。
鏡面に自分の顔を映してみる。
「な、なんでえ、こりゃ! 誰だ、こんな悪戯しやがったのは?」
大声で叫んだ。顔は元のままだが、頭髪がまるっきり変わっていた。
黒々とした頭髪は、なぜか金髪に変わり、庇が張り出したリーゼント・スタイルになっている。念入りにパーマを当てた髪形は、番長星の住人とまったく同じであった。
「誰がやったんだ……」
世之介の呟きに、全員が首を振った。茜が腕組みをして口を開いた。
「誰もやっていないわ。あんたがガクランを身につけた時、なぜか、髪が勝手に金色に染まり、自然にその髪型になったのよ」
世之介は手を上げ、自分の髪の毛に指を突っ込んだ。くしゃくしゃと猛然と髪の毛を乱す。
ところが、暫くすると、じわじわと髪の毛は元に戻って、リーゼントになってしまう。
「どうなってんだ……」と頭を抱えると、ぽん、とイッパチが膝を叩いた。
「そのガクランでさ! 若旦那がガクランを着たらそうなった、ってんでしょう? だから脱げば、元通りになるんじゃ……」
皆まで聞かず、世之介はガクランを脱ごうとした。が、どうしても手が動かない。うろうろと両手がガクランを探り回るが、脱ぐ気配はなかった。