封書
いつの間に自分の部屋に戻ってきたのか、世之介は自覚がない。がっくりと項垂れ、イッパチが淹れてくれた熱い番茶をふうふう吹きながら啜っている自分に、ようやく気付いた。
目の前には、省吾が膝を揃え、腕組みをしながら、端然と座っている。やや首を傾げ、省吾の視線には、何か試すかのような光が込められていた。
ようやく世之介の人心地がついたのを見透かしたのか、省吾は口を開いた。
「坊っちゃん。さぞかし、驚かれたこってしょうな」
世之介は省吾を見上げて返事をする。声に、恨みがましい調子が混じるのを、どうしても抑えることはできない。
「お前、あたしの下穿きを無理矢理あそこで脱がしたね。あんな騒ぎにになると、知っていたんだろう?」
いともあっさり「知っておりました」というのが、返事であった。
世之介は両膝を立て、伸び上がる。
「だったら、どうして……!」
「教えてくれなかった、と仰るのでしょう? 知っていたら、はい、そうですかと、素直に大旦那様にお尻を見せたでしょうか?」
ぺたん、と世之介は座りなおした。首を振る。
「いいや、そんなことできない……やっぱり、無理矢理お前たちに脱がされていたかも」
省吾は腕組みを解いた。
「でしょうから、わたしも敢えて、お教えするのは止めたので御座いますよ。二、三日前から大旦那様の様子を窺って、こういう次第になるのでは、と密かに考えておりました。それで、わたくし八方に手を回して、あるものを手に入れて御座います」
「なんだい?」
省吾は懐に手を入れ、一通の封書を取り出すと、畳を滑らせるように世之介の膝元に送った。封書を取り上げ、世之介は開いた。