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「戻れない『あの日』の回想。(全編)」〜Colorful World Another Stories〜短編集:3

掲載日:2026/05/09

「戻れない『あの日』の回想。」総集編です。

注意:この作品は別作品のネタバレを含みます。

五月雨が降る日、放課後のほの暗い教室に一人の少年がいた


「…まだ、降っているなぁ…」

雨はいまだ止むことを知らず、さらさらとふり続けている。

レイニーは空を見ながら、そう呟いた。

五月雨と書いて、「さみだれ」と読む。

レイニーが最近知った言葉だ。

五月雨は、その名の通り、五月に降る細い雨のことだ。

雷雨のような視界を埋め尽くす雨でもなく、

小雨のようなほとんど見えない雨でもなければ、

普通の雨のように音が鳴るわけでもない。

ただ、さらさらと流れるように降る雨。

彼はその雨が好きだった。

「…ずっと眺めてられるな…」

彼が五月雨を好きな理由はもう一つあった

それは、「自分の心を癒してくれるから」だ。

五月雨のような優しい雨は彼にとっては自分の心を潤すように感じるのだ。

だから、彼は五月雨をじっと眺めている。

そう言えば…一年前の五月雨が降っていたあの日。

彼は、かつての友人と再会した

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一年前、五月雨が降っていた頃。

教室にいたレイニーがふと窓の下を覗くと

校庭に「少女」が立っていた。

『傘をささずに』

彼女の制服は五月雨をひどく浴びたのか、もうずぶ濡れているように見える

「…あの子、あんなところにいたら風邪をひいちゃうぞ…とりあえず、傘を渡してあげなきゃ。」

レイニーは慌てて傘を持って、彼女のところへ向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

レイニーは校庭についた。

少女は依然として、校庭に立ち続けている。

「あ、あの。」

レイニーは彼女に話しかけた。

「こんなところで、傘もささずにいたら、風邪を引きますよ。」

少女は、その声を聞いて、振り向いた。

「…」

レイニーはその顔に見覚えがあった。

「!」

その少女はかつての話し相手「ソフィア・ブラック」だった。

「…ソ、ソフィアさん⁉︎…なんでここに…?。」

レイニーは少し引きながらソフィアに言った。


「…雨を、浴びていたの…。」

ソフィアは静かに無表情で呟く。

「……」

レイニーは何も言えなかった。

「今」のソフィアの姿と様子が「あの時」のソフィアの姿と様子とあまりにもかけ離れていたからである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・さらに壱年前。

レイニーが高校一年生だった頃。

レイニー・ラピスは初めて彼女に出会った。

五月雨が降る中、図書室で。

「…あなた、この本好きなの?」

それが、レイニーが高校に入って初めて話しかけられた言葉だった。

「ぴゃっつ!」

レイニーは思わず声を上げた。

「…あ、ごめんなさい。読書中に驚かせてしまって…」

レイニーは彼女を見る。

艶のある一つ結びの髪に、整った黒い制服

ブレザーのエンブレム部分には『図書委員長』というタグが付いている。

「私はソフィア、ソフィア・ブラック、一年Aクラス、今はこの図書室の管理人ってところね。」

彼女はそう名乗った。

「ど、どうして私なんかに話しかけたんですか…。」

レイニーはいまだに動揺している。

「その本、受付で貸し出し担当している時にいつもあなただけがそのシリーズを借りていたから。

あとは、私のお気に入りのシリーズの本でもあるから、興味があるのかなって思って話しかけたの。」

ソフィアは言う。

「…!、この本あなたも好きなんですか?」

レイニーは思わず彼女に聞いた。

「ええ、最初の巻から読み続けているの。家にも数冊あるかな…」


「あ、あの、好きなエピソードとかってあります…?

 わ、私は、この「花と老人」っていうエピソードが一番印象に残っていて…」

レイニーは焦って緊張しながら、初めて自分の趣味のことを話した。


「あー、あのエピソードね…確か、交通事故で奥さんを失ったことで生きる意味を見失った一人の老人が、

 『屋上の少女』に出会って、「手紙」をもらうってエピソードだっけ…」

「そ、そうそう!で、その手紙が、実は天国にいる奥さんからのものだったんですけど、

 あの手紙に書かれていた、『______』って言う言葉が、老人を立ち直らせたんですよ。

 それで、_______」

気づけば、レイニーはひたすらその作品の内容を話していた。

しかし、ソフィアは彼の話を最後まで聞いていた。

レイニーは、自分の好きな作品のことを話せて、それを最後まで聞いてくれるソフィアのことを嬉しく思っていた。

・・・・二十分後。

レイニーは作品の魅力を語り終えた。

流石に疲れたのか、息が上がっている様子だった。

一方、ソフィアは変わらずに笑顔なまま、彼の話を聞いている。

「この作品がそんなに好きなんだね。」

ソフィアは言う。

「…はい…登場人物たちが、自分たちを責めすぎて苦しんんでいるところを

 屋上の少女が助けてくれて、最後には前を向いて生きていける…感動する物語ですよ…」

レイニーは、少し疲れた様子で言う。


「そっか…」

しばらくの沈黙が流れる

五月雨は、まだ降り続けている。

「…また、機会があれば、お話できる?」

徐にソフィアが聞いた。

「はい、また作品のこととか一緒に話しましょう!」

レイニーは笑顔で返事をした。

「あ、そういえば、あなたの名前…まだ聞いていなかったな…名前は?」

「レイニー、レイニー・ラピス。一年Eクラスの生徒です。」

「よろしくね。レイニー。」

「はい、ソフィアさん。」


それから、彼らは図書室で会っては、互いに読んだ作品の魅力を好きなだけ語り合った。

レイニーは話を聞いてもらうことに喜びを感じ、ソフィアもまた、同じように感じているようだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかし、翌年の春を境にソフィアは突然、図書室に来なくなった。

聞いたところによると、「なんらかの理由」で図書委員を辞めたらしい。

不思議に思ったレイニーは、ソフィアのいる三号棟へ向かった。

「ソフィアを探している」と同学年の人に聞くと、生徒たちはみんな少しいやな顔をして言った。

「あいつは最近、学校に来てないよ。」

「それよりも、あんなうるさい奴に関わらないほうがいいよ」

「自分の意見を押し通そうとするし。」

「正論を言っているように見えるかと思えば、自分の間違いは認めないし」

「人としてヤバい奴だよな…」


(『?、…?、ソフィアが…学校に来ていない…?…あと、彼女はそんな人だったっけ…?』)

レイニーの疑問は深まるばかりだった。

そして、それからレイニーがいくら探しても、レイニーがソフィアを見かけることはなかった…

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、時は再開した時に戻る。

「…今までどうしていたんですか、ソフィアさん。

三ヶ月近くも学校に来ていないなんて…何があったんです…?」

レイニーは問いかける。


目の前のソフィアの顔は酷く白かった

艶のあった黒髪は、今では炭のように深い黒色に染まっている。

制服もほんの少し、ほころびていた。

「…大丈夫、大丈夫だから…気にしなくていいよ…」

その口調は、あのおときの明るさとは比べ物にならないくらい、

「暗くか細い」声だった…

「あなたは知らないほうがいいよ…『私にしか、理解できない』ことだから。」

ソフィアは淡々と述べる。

「…じゃあ、私はこれで…、これからはなるべく私に合わないほうがいいよ…。」

ソフィアはレイニーが持ってきた傘を受け取ることなく、

いまだに降り続ける五月雨に身を打たれながら、校舎内に戻って行った。

「…………」

レイニーは、変わってしまった友人に何も言うことができず、ただ、彼女を見ることしかできなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後、レイニーは、二学年の担任の先生に「ソフィアの事情」を聞いたところ、「彼女については

今は特に話せない」と、つっかえされた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日以降、レイニーは高校三年生になった今も彼女には会っていない。


彼女が二年前に一体何をしていたのかについてはいまだにわからない。


なにしろ、レイニーは彼女に図書室でしか会うことがなかったために

それ以外の彼女のことはあまりわかっていないのだ。


しかし、彼にとってのソフィアの印象はあの時と変わらず

「礼儀正しくて、人の話をちゃんと聞いてくれる人」だった。


今、彼女はどうしているんだろう。


五月雨がまだ降り続けるなか、レイニーはそう思うのだった…。

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